米国で死刑廃止論の機運高まる、制度公開の徹底化から
苦しみながら絶命する死刑囚の姿、議論の契機に
2015年10月15日
米国で死刑論議が高まっている。
昨年、死刑囚が執行の際に苦しみながら死亡した事例が発端となっているが、記者を含めて公開を徹底していることも死刑廃止の気運の高まりにつながった。
外国人記者の取材を認める州もある。
300件以上の執行に立ち会った地元記者は「使い古された言葉だが、権力監視の一環だと思う」と強調した。
「死刑囚の執行手続きは裁判所の決定で一時停止されました」。
9月中旬。
オクラホマ州マッカレスターの拘置所で、州幹部が午後3時に予定していた死刑執行の停止を告げた。
集まった記者約50人の緊張が一気に解けた。
リチャード・グロシプ死刑囚 (52) は1997年、勤めていたモーテルのオーナーを同僚に野球のバットで撲殺させたとして、殺人罪で死刑判決を受けた。
だが、起訴事実を認めて終身刑になったこの同僚の証言が検察側の証拠の柱。
物的証拠はなく、グロシプ死刑囚は無罪を主張している。
弁護士が同僚の証言の信用性を疑わせる新証拠を提出し、執行の3時間前に一時停止が決まった。
記者団に囲まれた弁護士は「本人は拳を突き上げ喜んでいた」と笑顔で語った。
執行は2週間停止され、その後、11月まで延期された。
オクラホマ州では昨年4月、米国で一般的な薬物注射で死刑を執行した際、手足を拘束されて処刑台に横になった死刑囚が激しく体を動かした。
呻 (うめ) ような声も聞こえた。
不適切な薬物の調合で苦しんだとみられる。
立ち会った記者が詳細に報じ、死刑の在り方に関心が高まった。
薬物の調合の問題には、死刑廃止論の高まりから製薬会社が販売を渋り、信頼性の乏しい薬物に頼っているという事情がある。
グロシプ死刑囚は人権無視だと訴えたが、連邦最高裁は6月、裁判官9人のうち5対4の僅差で合憲判断を示した。
米国では今年7月時点で31州が死刑制度を認め、死刑囚の親族らのほか報道陣に公開している州も多い。
オクラホマ州の場合、記者用は5席。
各メディアに記事を配信するAP通信に1席、事件が起きた地元のメディアに1席を優先的に与える。
残りは3席。
「今回は異例の希望者数」 (オクラホマ州当局) で倍率の高い抽選になるはずだったが、その前に停止が決まった。
いかなる気持ちで死刑執行に立ち会うのか。
AP通信ヒューストン支局のグラジック記者 (65) は、1984年からテキサス州の死刑に立ち会ってきた。
これまで300~400件の執行を取材したことで知られる。
グラジック記者は死刑の是非については慎重に言及を避けた。
ただ、「政府の透明性を大切だと考えるなら、執行の公開は極めて重要だと思う」 と語った。
(2015年11月1日号掲載)