Monday, 23 December 2024

運動のすすめ (Exercise Guideline)(2019.6.1)

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dr kim new     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。
その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


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運動のすすめ

Exercise Guideline

       
       

2018年、米国保険社会福祉省(Department of Health and Human Services)から「米国人のための身体活動ガイドライン(第2版)」が発表されましたが、このガイドラインを基にして、運動の効果と行い方について説明をしてみましょう。

今回のガイドラインは、2008年に発表された第1版の発表以降に蓄積された多くの研究成果とエビデンスを基に作成されました。

そして、運動による健康への増進作用、多くの病気のリスクを下げコントロールを改善することも再確認されています。

児童、青少年、成人、高齢者、妊婦及び出産後の女性、慢性疾患や障害のある成人などのグループに応じて、運動の効果が解説されています。

 

 

大人のためのガイドラインの概要

1日の座る時間を少なくし、運動する時間を増やします。しないよりは、どんな運動も健康上の効果があります。

健康上の効果を得るには、週に2時間半以上5時間程度の中強度の有酸素運動をするか、その半分の時間の高強度の有酸素運動をします。

有酸素運動は一度にやるより、なるべくなら、数日に分けてやる方がすすめられます。

週に5時間以上中強度の有酸素運動をやると、更に健康上の効果があります。筋力トレーニングも、週に2日以上やるようにします。

 

 

運動の医学的効果

運動をすると、早期死亡、虚血性心疾患、脳卒中、高血圧、高脂血症、2型糖尿病、大腸がん、乳がん、うつ病などのリスクを下げます。

心肺機能、筋肉系の機能を改善します。高齢者の認知症の予防にもなります。

他に、転倒による外傷、骨粗しょう症、不眠などの予防や改善に役に立つと考えられています。

以下、運動による効果を個別に解説しましょう。

 

心肺血管系に対する効果

心臓、肺、血管に対する運動の効果は最も研究されていて、例えば、中強度以上の有酸素運動をする人は、心筋梗塞などの心血管系疾患のリスクを著明に下げることが分かっています。

1週間に5時間以上運動すると、さらにリスクを下げることができます。

 

代謝系に対する効果

運動をすると、2型糖尿病、高脂血症など、代謝系の病気の予防になります。

また予防だけでなく、すでにそれらの代謝・内分泌系の病気に対してのコントロールを良くします。

 

筋骨格系に対する効果

筋骨格系の機能が落ちると、日常生活上での様々な身体活動が、できなくなってしまいます。

運動をすると、筋骨格系の機能が改善します。

そして運動の機能の改善により、高齢者の転倒や事故、外傷の予防、大腿骨頚の骨折や骨粗しょう症の予防や改善につながります。

 

がんに対する効果

運動をすると、膀胱がん、食道がん、腎臓がん、胃がん、乳がん、子宮体がん、肺がんなどのリスクを下げます。

 

精神面の健康

運動をすると、うつ病や認知機能低下のリスクを減らします。

また、熟睡できる確率が高くなります。不安、睡眠、認知機能、あるいは計画を立てたり遂行する実行機能、記憶、知性などの改善などが期待されます。

また、アルツハイマー病を含む認知症になるリスクを下げます。

 

慢性疾患を持つ人への効果

がんの経験者には、体力や健康状態の改善だけでなく、死亡率も下げます。変形関節症のある人には、痛みの軽減、身体機能の改善、生活の質を改善します。

高血圧のある人には、血圧のコントロールを良くするだけではなく、心血管系疾患の進行を防いだり、心疾患による死亡率を下げます。

糖尿病のある人にも、コントロールを改善し、心血管系疾患による死亡率を下げます。

 

 

運動の種類

運動には有酸素運動、筋力トレーニング、柔軟運動の3つのメジャーな運動と、骨強化運動、バランス訓練があります。

 

  • 有酸素運動 —— これは、身体の大きな筋肉を一定時間リズミカルに動かすことで、早足歩行、走行、サイクリング、なわとび、水泳、野球、ダンス、水泳などの運動を指します。有酸素運動は心拍数が早くなり、呼吸も通常より速くなります。心臓血管系を強く健康にします。有酸素運動には3つの要素があります。強度 — その運動をやるのにどれだけの努力をしないといけないかで、中強度、高強度(激しい運動)などに区別できます。頻度 — どのくらいの頻度で行うか、持続時間 — 1回でどのくらいの時間行うか。ただし、週当りの運動の合計時間がより重要です。

  • 筋力トレーニング —— 身体のいろいろな筋力を増強する運動で、ダンベル、エキスパンダー、腕立て伏せ、腹筋運動、懸垂などで、四肢、腰、胸、腹部、肩などの主な筋肉群を鍛えます。この運動は、筋肉だけでなく骨も強くします。筋力トレーニングは、週に最低2回行います。

  • 柔軟体操 —— 柔軟体操は、関節の可動範囲を広めます。柔軟体操によって、体の柔軟性を高めます。有酸素運動や筋力トレーニングの前のウォーミングアップとして、行ってもかまいません。関節や筋肉の柔軟性は、運動を行う上で事故の予防などでも重要です。

  • 骨強化運動 —— 体重負荷運動で体の骨に負荷をかけ、骨の成長と強さを強化します。ジャンピングジャック、ランニング、早足歩行、ウエイトリフティングなど。骨強化運動は有酸素運動でもあるし、筋力トレーニングでもあります。

  • バランス訓練 —— 立っていたり、動いている状態から転倒するのを防ぎます。

 

 

運動の行い方

まず1週間で2時間半から5時間、中強度の有酸素運動を行うのが目標です。

高強度の有酸素運動であれば、その半分の75分から2時間半行います。

毎日行う必要はありませんが、週に3日くらいに分けて行うのがすすめられます。

週末にまとめて行ってもかまいせん。

高齢の人で1週間2時間半の運動ができない人は、1時間でもかまいません。

できる範囲で行ってください。

運動は、スポーツだけではなく、階段の上り下り、歩行、庭仕事でもかまいません。

身体を動かす仕事をしている人 (庭師、建築労働者など) は、仕事で身体を動かしている時間も運動時間に含めることができます。

 

 

運動の程度

中強度の運動 (運動を行いながらしゃべることはできるが、歌は歌えない程度の運動)。

例:早足歩行 (時速4キロ以上)、水中エアロビック、サイクリング(時速16キロ以下)、ダブルのテニス、社交ダンス、一般的な庭仕事など。

高強度の運動 (息をつかない限り、2、3語以上の単語が言えない程度の運動)

例:競歩、ジョギング、ランニング、水泳練習、シングルのテニス、エアロビックダンス、時速16キロ以上のサイクリング、なわ跳び、激しい庭仕事 (穴を掘ったりする作業)、登山や重いバックパックを背負ったハイキングなど。

 

 

運動の強度

有酸素運動のレベル (強度) を知るのに、絶対的レベルと相対的レベルから知ることができます。

絶対的レベルというのは、1分当たりのエネルギー消費量ですが、軽い運動は、休息時の1倍から3倍未満のエネルギーを消費します。

中強度の運動は、3倍以上6倍未満のエネルギーを消費し、高強度運動は6倍以上のエネルギーを消費します。

相対的レベルというのは、ある運動をするのに必要な努力のレベルのことで、0から10までのスケールを使い、座っている時を0、最も激しい運動時を10と定義すると、中強度の運動は5か6、高強度の運動は7か8になります。

 

 

運動によるリスク

健康に良い運動も、行う人の年齢、心臓病や他の内科疾患の有無、筋骨格系の疾患の有無、運動量などによって、様々なリスクをもたらすことがあります。

最も多いリスクは、筋骨格系の事故ですが、これにはねんざ、筋肉痛、関節痛、腰痛、骨折などがあります。

狭心症、心筋梗塞、喘息 (ぜんそく) 発作、脱水、日射病などの疾患も起こる可能性があります。

ただ、運動による健康に対するリスクは、運動をしない時のリスクに比べてはるかに少ないと考えられています。

 

 

運動を始めるにあたっての注意

心筋梗塞、狭心症などの心疾患の既往のある人、糖尿病、高脂血症、高血圧、慢性肺疾患などのある人は、運動を行う前に医師に相談してください。

虚血性心疾患の可能性の高い人はトレッドミルというテストが必要になります。

今まで全然運動を行ったことがない人は、まず歩くことから始めてみましょう。

徐々に歩く時間や回数を増やし、歩く速度も上げていきます。

運動はいきなり始めないで、ウォーミングアップをして、徐々に運動できる状態にします。

そして運動後はクールダウンをして、元の身体状態に戻します。

運動は体調の良い時だけ行い、食後は少なくとも2時間待ちます。

天候、気温に応じた服装・運動量を考慮、暑い時は早朝あるいは午後遅めに行い、十分な水分補給、適切な服装と靴を着用、息切れ、胸部苦悶感、関節痛のような症状が現れた場合は運動を中止し、医師に相談しましょう。

 
この記事に関するご質問は日本クリニック(858) 560-8910まで。
 
(2019年6月1日号掲載)