Monday, 23 December 2024

常識枠を超えて/ノーマン・シーフの写真

 CDジャケに魂を吹き込む魔術師 音楽の魅力を高めるポートレート

 

Beyond the Boundaries: Photos by Norman Seeff
〜2022/5/1 (日)
Museum of Photographic Arts
https://mopa.org/exhibitions/beyond-the-boundaries-photographs-by-norman-seeff/

 

ジャケット・デザインの世界:ノーマン・シーフ

ノーマン・シーフ (1939-) はレイ・チャールズ (歌手)、カーリー・サイモン (歌手)、パティ・スミス (シンガーソングライター/詩人)、ロバート・メイプルソープ (フォトグラファー)、アンディ・ウォーホル (ポップアーティスト) など、世界の著名人の素顔を撮影してきた写真家・映像作家。

作品の特徴を簡潔に表現すれば、アーティストやイノベーターの優れた創造性が反映され、不思議なスピリチュアルパワーを感じさせる —— ということ。

彼のコミュニケーターとしてのスキルには信憑性があり、クリエーターの情熱と本質を捉える非凡な能力を備えた写真家/映像作家であると納得させられる。


シーフは1939年3月5日に南アフリカ・ヨハネスブルグで生まれた。

ヨハネスブルグの伝統ある中・高一貫校、キング・エドワード7世・スクールで科学と美術を学び、優秀な成績で卒業する。

17歳の時に、南アフリカの全国サッカーリーグに最年少でドラフト指名された。

26歳で医師免許を取得して救急医療に携わり、外傷性ショックの研究と治療に力を注ぐ。

29歳になって芸術への情熱に目覚め、自分の能力と創造性を磨くためにアメリカに移住した。

実に、ユニークな経歴の持ち主なのだ。


ニューヨークに渡って間もなく、マンハッタンの路上で出会った人々を撮影したシーフの写真は、著名なグラフィックデザイナー、ボブ・カトー (1923-99) の目に止まり、その才能を見出される。

カトーは半世紀もの間、音楽と大衆文化の発展に貢献してきた人物であり、レコードアルバムのカバーデザインの世界にシーフを導くことになる。

これがシーフの人生を大きく変えた。

1960年代後半〜70年代半ばに人気を博したロックバンド、ザ・バンドの付録ポスターが彼の最初の仕事となり、すぐに有名になる。


ノーマン・シーフの方法論は、アーティストのポートレートという基本から逃げずに、本人と真正面から向き合うことを原点としていた。

被写体の自然体にこだわり、その姿を魅力的に見せることで、アルバムに納められた音楽も魅力的に感じさせられると信じていた。

その意味では技巧派とは対極にあった。

とはいえ、レコードのジャケットに本人の肖像写真というのはあまりにも伝統的な手法であり、そこに新しさを生み出すのは相当な工夫があったと思われる。

単なるポーズを付けた静的なものではなく、目の前で何かが起こっているというようなドキュメント性。

アーティストがメディアに見せたことがないような表情。

身体を使ったアクション。

その瞬間を引き出すための演出にも頭を悩ませたようだが、そんな小細工よりも、最も肝心なのはアーティストと深くコミュニケートして、オープンな信頼関係を築くこと。

それに気付いた彼は、カウンセラーのような独自の “戦術” を駆使し、今まで見たこともないアーティストの表情を捕えることに成功する。

そして、アルバムのヒットにつないだ。


1971年、シーフはバーモント州のベニントン大学で1年間、写真学科の教授を務めた。

1972年にロサンゼルスへ移り、ユナイテッド・アーティスツ・レコードのクリエイティブ・ディレクターに就任。

3年後には、サンセット大通りに独立したスタジオを開設する。

彼の写真セッションはすぐに伝説となり、毎回30~40人、時には200人以上の生徒を集めた。

俳優のワークショップと独創的な自発性を開花させるシーフのセッションは、感情を揺さぶる体験として話題になり、一流アーティストや社会活動家たちの象徴的なイメージを数多く生み出した。

1975年のアイク&ティナ・ターナーのセッションを皮切りに、シーフはアーティストとの “魂の交流” からインスピレーションを得て、自分のセッションを撮影するようになる。

このフォトセッションを第2のスタート点として、82歳の今でもアーティストの創作活動における内面的なダイナミクスを探求し続けている。

彼が撮影したポートレートは、ミュージシャン、画家、映画監督、小説家、劇作家、テレビタレント、科学者、評論家、起業家など多岐にわたっている。



◼︎ 入場料:無料。*ドネーションを奨励。随意の金額を寄付することで入館できる。